人の好みは移ろいやすいもの?、知らんけど。
マニアックな話ばかり続けてますが、今回はスピーカー編。
オーディオの行き着く所、スピーカー選びは本当に悩ましい。
個性と差異が一番出る機器だし、値段が高いから良い音がするとも限らない。
音の好み、ルックスの好み、密閉、バスレフ、バックロード、ホーンなど方式の違いも多く、置き場所の制約なども入れると無数の「解」が存在する。
個人的に好きなスピーカーはアルニコ・マグネット時代のJBL。
今やビンテージと言われるスピーカー達。
主張が強く、色も濃く、力強く迫力は申し分なく、前へ前へ攻めてくる音。
匂いを纏った音とも言える。
写真のPARAGONは、音がどうとかの前に佇まいが素晴らしい。
唯一無二のスピーカーだ。
再生音以外のストーリーに惹かれることも解の一つで、旅先でこのスピーカーが
置いてあるJAZZ喫茶があるとわかると、わざわざ訪ねるくらい好きなスピーカー。
【JBL Paragon】
JBLのアルニコ・マグネット38cmウーハーから放たれるドシッ、ズドーンとした低音、それもダブル・ウーハーならいうことなしだけど、置く場所も買う金もなく憧れだけ。
ニノミヤ無線時代にビルを揺らすほどの音量で聴いていた頃、低音は聴くのではなく腹や体の芯で感じる圧だった。
その中でもJBL4350はモニタースピーカーとして、ある種の究極の選択肢の一つだ。
【4350 Sutudio Monitor】 【4311 Control Monitor】
高校の時に買ったのはこのシリーズの末弟4311Aで、その後ツィーターを075のホーンに変えたりして40年近く手を加えながら聴き続けている。
他にはQUAD ESLという静電スピーカーも好きなスピーカーだ。
コーン紙を持たない静電型スピーカーという変わり種で、冬場は静電気でアルミの筐体に触るとバチバチと火花がでる。
このスピーカーの再生音はJBLとは真逆の音で、単体だとシルキーで繊細な音。
音量は全然出ないし室内楽かピアノソロくらいしか聴けないが、片CH タテに2段積んだ特注品は
主張のないすごく自然な音がして、生々しさで言えばJBLよりの上を行く。
ドイツのSIEMENSの妖怪のような強烈無比な音も凄かった。
音の立ち上がり、キレ音の輪郭、音程など音量に関係なくスピード感が凄いスピーカー。
当然手懐けるのも難しいけど、きっちりセッティングできたら小さな音でも抜群の鮮度とバランスで鳴った。
【SIMENSE Coaxial 2発】 【SIEMENS Eurodyn】
映画館などで使われた劇場用の超プロユースなスピーカー「EURODYN(オイロダイン)」。
永久磁石ではなく励磁(れいじ)という電磁コイルのマグネット駆動でされる。
登場したのは1945年。
このジーメンズ社の創立は1847年(江戸時代)までさかのぼり、創立者に電気について教えたのはオーム。あのオームの法則の発見者だ。
ジーメンスがコーン紙型スピーカーの特許を取ったのは、エジソンが蓄音機を開発した年と同じ1877年。
ヒトラーが演説する時に「10万人が集まる広場の隅々まで同じ声が届く音響装置を開発せよ」 という注文を受けていた会社だけあって、ほんの数ワットしか出力を出せない当時の真空管アンプでも、野外で十分使えるくらい能率が良いスピーカーを製造している。
オイロダインは映画館で使われていたので、部屋で使うというのは完璧な邪道です。
アンプを選び、音源も選び、きちんと調整できる腕がないと乗りこなせないジャジャ馬で、素性の悪い機器が混ざると聴けたもんじゃない音になる妖怪のようなスピーカー。
でも、手懐けるととてつもなく良い音がするというので評判になった。オーディオの先生も 「オーディオの行き着く先はオイロダイン」と言ってました。
前置きが長くなったが、そんな個性の強いスピーカーの中で、オーディオ史で銘機と称される スピーカーの1つがJBLの20cmのフルレンジ・スピーカー「LE-8T」
SANSUIが特製BOXにマウントしてSP LE8Tとして販売。
シングル・コーン特有の安定した定位、質感。20cmなのに低域の豊かな量感、フラットなレスポンス。
センタードームには、ボイスコイルボビンに直接取り付た超薄加工のジュラルミン製カバーの おかげで、高域もほどほどに伸びているワイドレンジで躍動感のある音。
特にヴォーカルを再生すると、声の艶、息遣い、唇の湿り具合までをも再生するようなリッチな 中低域は、このスピーカーにしか出せない音でJBLの遺伝子とも言える音。
人の声以外にも、帯域の近いサックス、管楽器、ギター。スネア・ドラムや弦ベースのピチカートなど、決して他では聴けない「麻薬的な音色」で聴かせる銘機である。
ただ、悲しいかなクラシックは不得意で、特に弦楽器のように透明感を求められるような再生には向いていない。
スピーカー・ユニットが白く見えるのは、JBL独自のダンピング剤が塗布されて、周波数特性の 暴れを抑えていると言われている。
また、ボイスコイルもJBL特有のリボン状のアルミ線によるエッジワイズ巻で、これにより再生帯域が広がった。
いま主流の透明感重視のリーン・サウンド(淡白な音)。
一聴するとワイド・レンジで細身で締まったクリアな音像がいい音とされるようだが、個人的には真逆のむせ返るようなリッチ・サウンド(濃厚な音)志向なので、レンジはナローでも押し出し感の強さや、豊かな中低域に音の軸がある再生音を大事にしたいのでヴィンテージJBLの遺伝子に 反応するんだろうと思う。
銘機「LE-8T]に狙いを定めて、再生帯域をもう少し広げられないかという無謀な製品を求めて 音決めをしていった製品がある。
我が家にも記念に1セット残してある。
1980年発売の東芝 SS-L3SⅡ 知ってる人は滅多にいない製品だ。
当時の定価がセットで76,000円
SANSUI「SP LE-8T」は倍ほどの定価だった。
再生帯域を広げるために2ウエイにしてウーハーは25cmに広げ、エッジは加水分解しないフリー エッジを採用。
「LE-8T」で唯一不満のあった高域再生を補うために、チタン合金のリング・ツィーターが新開発された。
このリング・ツィーターの開発費のせいもあって、定価で販売しても利益は全くなかった製品。
2つのユニットのつながりを自然に聴かせるために、クロス周波数を決めるのに何度もテストを した。
横には麻薬的な音色の「LE-8T」を置いて。
技術的にリング・ツィーターで低い周波数まで扱えるようにするには、振動板をリング状にして 有効面積を広げ、素材をアルミよりも剛性の高くて軽いチタン合金にしたと聞いた。
外周・内周の2周のエッジを、斜めに山の折り目を付けたタンジェリング・エッジ一体成型で精度を上げ、タンジェリング間のドーナツ状の環(リング)が振動部となって歪み感の少ない粒立ちの良い高音を再生する。ちなみにチタン合金の厚みは30μ(ミクロン)。
構造は剥き出しのJBLのドライバーのよう。
ネットワーク部に岡谷のVコンデンサーを奢るあたりに、当時の大型家電メーカーのこの商品に 対する威信の現れを感じる。
幾通りものネットワーク・コンデンサーやコイルを取り替えては試聴を重ね、一番自然に聞こえた2,000hzというかなり低い周波数でクロスさせることになった。
「 LE-8T」の高域補正用にツィーターを足すときには、低くて7,000hz 推奨は9,000hz辺りに設定されるので、いかに低いかがわかってもらえるだろうか。
製品の狙いは「LE-8T」のワイドレンジ化だったが、最終的にあの妖艶な再生音とは違うキッチリと出汁をとった和の椀物のようなスッキリとした味わいの再生音になった。
そつなく何でもこなす代わりに再生音の軸は、中低域から中高域寄りに移動しリッチ感は薄まった。
LE-8Tの麻薬のような再生音の正体は、白く塗布されているダンピング剤だという人がいる。
世界中のメーカーがあのダンピング剤を研究したが、正体を突き止めるのに20年近くかかったそうだ。その間に音の志向が全く逆になっていったので、その苦労は報われずに終わった。
この製品に関わったのを最後に、いよいよ高校も卒業。
大学時代はレコード会社のバイト生活が始まります。