二人の作曲職人
駅に向かう途中、キンモクセイの甘い香りがしてきて、いよいよ秋の到来を感じました。
10月7日に亡くなった作曲家、筒美京平さん(享年80)の追悼特別番組「HIT SONG MAKERS ~栄光のJ-POP伝説 」が、24日正午からBSフジで放送されます。
この番組は、2005年元日にBSフジで放送され、その後民間放送連盟賞のテレビエンターテインメント番組部門の最優秀賞を獲得。番組へのコメントが、“無数のヒット曲を残しながら、これまでマスコミの取材にはほとんど応じることのなかった作曲家・筒美京平を取り上げる。彼へのロングインタビューと、なかにし礼、松本隆、酒井政利、白川隆三、いしだあゆみ、太田裕美ら関係者へのインタビューや、彼の代表曲の演奏と歌唱により構成する。日本の大衆音楽史に大きく貢献した筒美の歩みの全体像が理解できる、優れたエンターテインメント作品である。”
この作品には思い出があり、同じ年に私がプロデュースした作品も同じ部門の中央審査に廻り、優秀賞をいただけたから。番組へのコメントも“今どきの若者の意外な一面が浮かび上がる良質のエンターテインメントである。”と、言ってもらえたが、「優れたエンタメ」と「良質なエンタメ」の差が評価の差だと思い知った。
技術も存在も職人の作曲家、筒美京平。
「売れないけど心にしみる歌はいらない」と宣言、「ヒットメーカー」「ヒット請負人」という呼び名にこだわられた。
筒美京平という人は表舞台に出るのを極端に嫌い、裏方という意識が徹底していたそうで、個人的にはすごく共感できる。当時は取材も受けなかったので、実在せずにゴーストライター集団によるペンネームなのではという噂まで流れていた。
ちなみに、筒美京平は本名ではなく、最初考えていたペンネームは、「鼓響平」。力強さと気品が重なる鼓の音を理想としたそうだ。
自分は裏方にこだわるかわりに作品を表舞台に上げることへの熱量はすざましく、古今東西の売れた曲を分析し、欧米でヒットしたポップスの要素を日本風味に仕立て直し、どこか憂いのあるメロディとホーンを使った華麗なアレンジで、それまでの演歌ベースの流行化を一気に華やかな歌謡曲(J-POP)に昇華させた立役者。
西洋料理を和風に合わせたカツ丼に例えて「カツ丼理論」と話されてた。
職人肌のソングライター、山下達郎。
普通は出回らないデモ音源。最近のCDでは、これをオマケとしてつける作品が結構ある。昔は海賊版としてイリーガルに出回ったのが、いまやオマケになっているのが隔世の感がある。
その中でも、達郎さんのデモのクオリティと、曲にまつわる逸話がが面白い。
矢島賢(Guitar)伊藤広規(Bass)青山純(Drums)竹内まりや(Chor)
申し訳ないが、マッチにはこの布陣の豪華さを理解できていたとは到底思えず、〇〇に真珠状態だったと思われる。「5音程度しかまともに歌えない」と言われたマッチの激狭音域に合わせつつ、なんとか起伏を作ろうとする苦労の跡が矢島賢のギターパートに見え隠れ。まぁ、美空ひばりに歌番組中に「おばさん歌上手いね」と言ってのけるヤンチャ坊主にわかるわけないか・・・。
達郎氏はこれまでのマッチの楽曲を徹底的に研究。音が下がっていく時はあまり音程を外さないというのに気づき、5音というオクターブにも届かない限られた音域で作曲したと解説していた。
達郎氏は「歌謡曲のように3ヶ月で消費されちゃうような音楽には興味ないんですよ」と語ってたが、小杉氏の依頼もあり少年隊の東山の語ったエピソードによると「若い子の意見も聞きたいということでジャニーズの合宿所に出向き、東山が水割りを作って達郎さんに差し出しながらミーティング」をしたそうだ。
達郎デモにはマッチ版にはない、曲最後の「これで決まりさ、これで決まりさ、それが最高!」が入ってる。
そして、ジャニーズと達郎氏の蜜月はKinki Kidsのデビュー曲「硝子の少年」へと受け継がれていく。
1997年 Kinki Kidsデビュー曲「硝子の少年」
山下達郎(Key,E.Guitar,Chor)
佐橋佳幸(E.Guitar)
橋本茂昭(Prog)
難波弘之(Key,A.Piano)
(このデモでは佐橋佳幸はA.Guitar)
「硝子の少年」はジャニーさんからオリコン1位&ミリオンセールスが至上命令だったそうで、そはそれはプレッシャーだったと思う。
曲作りの際には既にジャニーズでヒット曲を数多く手掛けていた筒美京平さんならどういう曲を書くのかというのを意識して創ったそう。
作詞もテーマに苦しんだそうだが、達郎の圧倒的な原曲のパワーに引っ張られて一気に書き上げたそうだが、そんな大人の苦労をよそに、達郎が唄った練習用テープを受け取って一聴した堂本光一は「自分で唄いはったほうがいいんと違います」と言ったとか。
筒美・達郎 両氏に共通するのは、圧倒的な音楽理論に裏打ちされた研究成果が作品になっていることで、鼻歌でフンフンいって創った曲ではないということ。理論と感性とひらめきが高い次元で融合し続けているからヒットメーカーでい続けられるんでしょう。
生活のすべてが音楽なんでしょうね。
「硝子の少年」のオケにはギターで佐橋佳幸氏が入ってるので、サビ前とかにラブ・ストーリーは突然にのイントロで使われた、あの「♪トゥクトゥ〜ン」フレーズが聴こえます。
最近は達郎氏はマッチとKinkiへ提供した2曲をライブでセルフカバーで披露してる。3ヶ月ほどで消費される歌謡曲ではない錆びない楽曲だから、提供先から手元に戻ってきて大切にに唄ってる気がします。
最近は、たまにものまね芸人のポセイドン石川に聞こえてしまうのが玉に瑕(笑)